憧れの先輩が溺愛系彼氏になった件
茅ヶ崎青葉がボーイとして働きはじめたホストクラブには、高校時代に密かに淡い恋心を寄せていた先輩・宮野颯太がNo.1ホストとして君臨していた。かつては遠い存在だった彼と親しくなって再燃した青葉の恋心は、酔った颯太を家まで送ることになった際に爆発し——!?
茅ヶ崎青葉は背負っていた男をベッドにおろすと、静かに深く呼吸をした。
男の名前は宮野颯太。
高校時代、青葉が密かに恋心を寄せていた二学年上の先輩であり、今は同じバイト先の従業員である。
といっても、青葉はボーイ、颯太はNo.1ホストという差はあるが。
今夜は店で颯太のバースデーイベントがあった。
颯太を贔屓にしている女性客が大勢集まり、当然大量のアルコールが注文された。
颯太はそのすべてを笑顔で受け取っていたが、閉店とともにすっかり酔い潰れてしまった。
ひとりではとても帰路につけなさそうな彼の送迎役に指名されたのが青葉だった。
「お前ら仲良いし、面倒見てやった駄賃として泊めてもらえ」というのは店長からのお達し、他の従業員たちもそれに賛同の意を示していた。
——周囲から、颯太先輩と仲良いと思われているなんて。高校時代の俺が聞いたらびっくりするだろうな。
*****
高校時代から颯太は人の中心に立つ男だった。
サッカー部のエース、モデルのように整った容姿、明るく気さくな人柄とモテる要素がぎゅっと詰まった男だった。
現にホストクラブ内でもNo.1で、女性客だけでなく従業員からもとても慕われている。
一方で青葉は高校時代は日陰者だった。
たまに千円カットで整えるだけのもっさりとした黒髪と黒縁眼鏡を携え、漫画同好会で密やかに暮らしていた。
まるで住む世界の違うふたりが高校時代に特別な関係性を持つことはなかったが、漫画同好会からちょうど見やすい位置にあるサッカーグラウンドをちょくちょく眺めては颯太に目を奪われていた。
一度だけ落としたハンカチを拾ってもらい声をかけられたときのやさしい声音と笑顔があまりに素敵だったのが決め手となり、青葉は一方的に密やかな恋を抱くようになった。
青葉は颯太を遠い世界の手の届かない存在だと思っていたし、明確な関係性もなかったから、颯太が高校を卒業したときも告白はしなかった。
それでもずっと恋心はなくならず、颯太が上京したと噂だけを頼りに、青葉も東京への進学を決めた。
もしいつか偶然にでも颯太と会えたときに「高校時代憧れていました」と堂々と伝えられるようにという思いからおしゃれを勉強し、メガネはコンタクトに切り替え、髪は美容室で綺麗に整えてもらった。
そのおかげか、大学では陽気なグループの一員となったし、異性から声をかけられることもちょくちょくあった。
その勢いで、煌びやかな世界で働いてみるのもありかも、とホストクラブのアルバイトに応募をしてみたら、まさかそこで颯太と再会するとは思いもしなかった。
仕事のためとはいえ、高校時代とは比べ物にならないほど颯太と話すようになった。
事務的なやりとりを脱したのは、女性客とのトラブルを一緒に解決したことがきっかけだった。
それ以来、颯太の方から青葉に構ってくるようになった。
大学生との二足の草鞋、ホストクラブから二駅のところに住んでいる、彼女はいない、なんて個人情報もぽろぽろと零される。
そのたびに俺あんたに片想いしてるんですけど、その情報利用しちゃったらどうするんですか、と心の中でツッコミをいれながらも、実際行動に移したことはこれまでなかった。
今日だって本当に送っていくだけのつもりだった。
しかし、颯太の家に足を踏み入れるとともに、気持ちが抑えきれなくなった。
高校時代から好きだった人。
地元が同じという話はしたけれど、高校まで同じということは言わなかった。
「同じ街に住んでたなら、昔どこかで会ってたかもね」などと宣ったくらいだから颯太はきっと青葉のことをなにも覚えていないのだろう。
そうだと思っていたし、それでも、ずっと一方的に思いを寄せ、募らせてきた。
そして、手が届く距離に颯太がやってきた。
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