初恋アバンチュール (Page 2)
わざわざ隣に座りたがるこの男は巽とどうにかなりたいと思っているのだろうが、巽にはもとからその気がないうえに、異性相手ですらなんの欲も甘い感情も抱かないというのに男の相手なんてできるわけがない。
しかし、男は巽のあからさまな渋い顔を見ても少しも動じることなく、むしろ笑みを深めて勝手に隣席に腰をおろした。
「なに飲んでるんですか」
「…カシオレ」
「カシオレとかジュースじゃん。見た目はクールでかっこいい大人って感じだけど、意外とこども舌なんですね」
からかうように言われて少しむっとする。
男はそれを見てくすりと笑う。
「怒らないでよ。俺も好きですよ。カシオレ」
そう言って男はバーテンダーに声をかけるとカシオレを注文した。
「君もこども舌ってことになるけど」
「そうですよ。好きな食べ物はオムライス、嫌いな食べ物は野菜。甘いものは大好きだし辛いものや苦いものは得意じゃない」
「あ、でも」と男は何かを閃いたように顎に指を当て、瞳を細めた。
「苦いの舐めるのは好きですよ」
婉曲的な文言に巽は最初はピンとこなかったが、少しして男が言わんとすることを理解し、眉をひそめた。
「…そういうのやめろよ」
「ここの人たちはそういうことばっか話してますよ。みんなヤるための相手を探しにきてんだから」
「俺は違う」
「たしかに入店してからずっとこのすみっこにいましたよね」
「俺は友人の付き合いできただけだから…あと言っとくけど、男にも興味ないから」
「ノンケの人はみんな最初はそう言います」
「…ノンケですらないかもしれないんだけどな」
「どういうことっすか?」
うっかり口を滑らせた巽に、男がこてんと首を傾げた。
耳朶にはピアスをじゃらじゃらと飾って、こんなバーにいて、しかも客の雰囲気までしっかりと把握しているから常連なのかもしれない。
男はあきらかに慣れた遊び人で、しかも今は巽のことを狙っている。
本来はもっと警戒したり、逃げたりすべきなのだろうと思う。
だが彼の仕草や表情には無垢や人懐っこさを感じるせいか、巽はどうにも心を閉ざしきれないまま、つい男の疑問に答えてしまった。
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