僕は人魚姫にはなれない
面食いの西野は王子のようなルックスの前川に一目惚れをする。ノンケだからと諦めつつも、前川とお近付きになろうと必死で頑張る西野。しかし、前川には別の好きな人がいた。自分を代わりにすればいい、西野のその一言から始まる歪な関係。その関係はどんどん西野を苦しめていく。そんななか、前川から衝撃的な一言を告げられる…。
「笠井ッ…」
グチュグチュといやらしい音が部屋中に響き渡る。
速くなる腰の動きに合わせて、その音はいっそう大きく音を立てる。
「気持ちいい?っ、笠井っ」
硬くなったペニスで何度も刺激され、漏れそうになる声を、僕は必死で抑えた。
「あぁッイきそう!…」
より激しくなるピストン。
「笠井ッ笠井ッ!一緒にイこうっ!!」
後ろから何度も名前を呼びながら、白い熱が僕の中に注ぎ込まれる。
ドクドクと中に入ってくるその感覚に、僕は涙が出そうになる。
力尽きて僕の背中へパタリと身を預けた男は、小さな声で囁いた。
「かさぃ…」
僕ではない、他のやつの名前を。
*****
「ん…」
「ようやく起きた?前川」
グタリとベッドの上で横たわる前川に声をかけると、のそりと力無く起き上がる。
「ごめん、西野…」
ようやく呼ばれた僕の名前に、嬉しさよりも悲しみが先行し、自然と眉が寄る。
けれどそれを見られるわけにいかず、僕はプイッとそっぽを向く。
「毎回謝るくらいならさっさと笠井に告白しなよ。それでフラれろ」
「酷いなぁ、西野」
僕の言葉に前川は苦笑いを漏らす。
本気でそう思う…なんて前川には伝わらないんだ。
*****
僕と前川は2年前、大学1年生のときに出会った。
もともと同性が好きで、面食いだった僕は、その王子のようなルックスの前川を偶然見つけ、一目惚れした。
ノンケ相手に無理だとわかっていながら、どうにかお近付きになりたくて、とにかく必死で前川のそばに寄っていった。
学部も違う、サークルも違う。
接点なんて何1つなかったけど。
偶然を装って食堂で隣の席いいかと声をかけたことが最初。
わざと目の前で物を落として拾ってもらったのが2回目。
そうして少しずつ僕の存在を認識させて、ついには他愛もない話をする友達にまで昇格した。
そして大学2年生のときには、複数人で外で遊ぶ場所に呼ばれるまでに昇格。
我ながらそこまでよく頑張ったと思う。
そんなふうに前川との距離を縮めていたある日、ついに2人きりで会わないかとお誘い。
大学から少し離れていて、あまり人がいない喫茶店を指定され、そこで前川から言われたのが…。
「俺、男が好きなんだ」
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