狐は贄を溺愛する (Page 2)

長く動きづらい裾を引きながら階段をのぼりたどり着いた先には、古びた社があった。

ところどころ老朽しているのがおどろおどろしい雰囲気を醸し出していて、悠はわずかに怖気を感じながらも本殿の中へと続く扉をそうっと開いた。

薄暗い内部には御幣が吊るされたり細かな彫刻が彫られた気壁に囲まれた中央に、ご神体が安置されていた。

村に残った古くからの言い伝えによるとその前に膝をついて祝詞を唱えれば、神は顕現し、生贄を食べ、気に召された際には願いを叶えてくれるという。

悠は深呼吸をしてからご神体の前に向かった。

そして裾を払いながら丁寧に膝を折って正座をすると、目を瞑って両手を合わせた。

唇を開き、習った祝詞を唱えていると、ふいに瞼の向こうが明るくなった。

同時に、なんとも形容しがたい重圧感がただよい、悠の皮膚はぞわりと粟立った。

(誰かいる…誰かが俺のことを見ている)

もしかして、神様が顕現してくださったのだろうか。

背に冷や汗を感じながらも、悠は自ら生贄になることを選んだのだ、悠は懇請の言葉を口にした。

「狐神様、狐神様。誠に勝手な願いではございますが、どうか…私めを贄とし受け取ってくださらないでしょうか。村に雨を降らせてくださらないでしょうか」

小さく笑う声がしたかと思うと、重圧的な気配は悠の背後に回った。

そして、悠の項に鋭い痛みが走った。

(嚙まれてる!?)

返事もなしに早速食らう気かよ、と悠は戸惑いながらも、さらなる痛みに身構えた。

しかし続いて白無垢に指が差し込まれ解かれる。

「え、ちょっと…!」

脱がされるなんて聞いていない、それは困る、男だとばれてしまう。

焦った悠が思わず目を開けて身じろぐと、硬い床に押し倒された。

見上げたそこには暗闇でも分かるほどに澄んだ白銀の長髪を持った麗しい男がいた。

それだけでも印象的なのだが、何よりも目を引かれるのは頭上に生えた狐のような耳だった。

ついそれを凝視していると、男は瞳を細めて微笑んだ。

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