角砂糖は要らない (Page 2)
「ん。これ、お酒入ってます?」
「ええ…お嫌いですか?」
「いえ、慣れてなくて」
そう言っている間にも、その熱は増していく。
口だけじゃない。喉の奥、腹の底、手足、脳まで。
「…お水、もらってもいいですか」
「ええ」
冷たい水を流し込んでも、熱い。思わずネクタイを緩めた。
「お客さん、大丈夫ですか。よろしかったら、仮眠用のベッドがありますので」
カウンターから出てきたマスターは甘い、いい匂いがした。
ああ、やっぱり――
「…マスター。ごめんなさい。こんな、迷惑かけて」
「迷惑だなんて、とんでもございませんよ」
熱にふらつく俺を、しっかりと支えてくれる。
やっぱり、マスターはかっこいい。紳士的で、男らしい。
「会社の外でくらい、甘えてみてはどうです?」
「あまえる…」
とても、素敵な響きだ。
マスターの背に、腕をまわす。お互いの体が、ぴたりとくっつくように。
マスターに触れた場所すべてが、甘くしびれる。
「んっ…マスター…」
「…ベッドに行きましょうか」
*****
優しくシーツに沈められた俺は、マスターの温もりが離れてしまったのが寂しかった。
「はぁっ、はっ…」
店の奥にあるこの部屋は薄暗くて、マスターの姿がよく見えない。精いっぱい目を見開いてみても、真っ暗だ。手を伸ばしても、触れるのは空気だけ。
「う、ぅ…っ」
「ここにいますよ」
太ももに心地よい重さを感じて、マスターを確認する。安心して手を伸ばせば、指を絡めてくれた。
するとそのまま手の甲に口づけられる。さらに爪、関節まで愛されて、そのたびになにかが壊れていった。
もう、なにもわからない。
「甘えたいときは教えてくださいね」
「うぅ…?」
「少しずつできるようになりましょう」
「? は、い…んうぅ、ん…っ」
マスターの舌で、口の中を探られる。
右手が離されたかと思うと、ネクタイをほどかれた。続けてワイシャツのボタンも開けられて、肌が空気に触れる。
「んぁっ!」
胸の敏感なところに、冷たいとろとろをかけられた。それは次第に熱を帯びていく。
「んっ…んっ…」
頭がぼうっとしている。けれど、気持ちがいいことだけは、わかる。
「ひぁぁっ! あぁっーー!」
胸はじんじんして、マスターの指で擦られるとたまらない。
「素直に感じられて偉いですね」
「あ、んん」
褒めるようにキスをされて、全身がしびれる。
暗闇になれてきた目は、マスターの表情を映し出す。
見たことのない、雄の顔だ。
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