策士な恋人
夕飯の出前で対立している要と颯。なかなか決まらない中、要が提案したのは「最後まで我慢できた方に従う」こと。しかしそういう行為を避けてきた颯は今回も引いてしまうが、その様子に傷ついた要を見て、秘密を打ち明ける決心をした。
要と僕の戦いは、7時過ぎから始まってすでに10分は経過している。
「ピザ!」
「寿司」
「炭火焼きビーフ!」
「サーモン」
「なーんーでー!!」
自炊続きだったこの頃、久しぶりに出前を頼もうと言ったのは要だった。
「せっかくだし、普段食えないのがいい」
「ピザだって食えないよ」
「一昨日グラタン食ったじゃん。ほぼピザだよ」
「うわ残念舌! ビーフストロガノフもカレーだと思ってる?」
「ビーフ…?」
「なんてことだ! 絶対ピザピザピザああぁ!」
すると要がため息を吐いた。
「…じゃあ、こうしようか」
しまった。静寂を好む男だから、少し苛立たせてしまったかもしれない。
「最後まで我慢できた方が勝ち」
「…へ?」
間抜けな声を上げた僕に、要がのしのしと寄ってくる。
そうしておもむろに手が伸びてきて――
「わぁっ!?」
要の大きな手に、自分の股間が包まれた。
「な、なに、なん、え、ちょっと」
「颯、焦り過ぎ。俺たち恋人同士でしょ」
「…っ!」
「こういうことしてもおかしくないと思うんだけど、どうかな」
恋人になってから2年が経つけれど、そういうことは、一度もしたことがない。
「…えっと、どう…うん…うぁっ、あ、待って」
「颯もやってくれないと、負けちゃうよ?」
「っ、うぅ…! もう、やだ、寿司でいいっ、ピザやめるからぁ!」
なんとか要の手から逃れて立ち上がる。足に力が入りにくくて、少しふらついた。
「わっ…!」
転んだ衝撃に備えて目を閉じると、要が抱きとめてくれた。
「…ごめん、かな――」
「ほんとごめん。もうしないから。ごめん」
「…」
「颯がこういうの嫌いだってわかってるのに。抑えられなかった」
その罪悪感を表すように、僕を抱きしめる力は痛いほど強かった。
僕は決心した。羞恥を追い出すように、要の胸に頭を押し付ける。
「…僕だって、したくないわけじゃなくて。た、たまに想像とかするし」
要の腕が緩んだ。
「なんていうか…その、小さいんだ、僕の。すごく」
恥ずかしすぎる。要の服を握りしめても収まらずに、どんどん顔が熱くなる。
「見たら要、びっくりするかもっていうか。いや、僕が恥ずかしくて、だめで」
不意に、柔らかく抱きしめ直された。
「…颯、すごい熱い」
「だって、恥ずかしい…!」
口付けられて、かくん、と足がすくんで座り込む。
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