男娼街で味わった60分の官能
とある裏通りの料亭で男娼として働く大介(だいすけ)は、店の管理人でもある遣り手の響(ひびき)に売り上げが減少したことを指摘されていた。理由は答えないが、ある条件を飲むならまた売り上げに貢献すると大介が言う。大介が響に出した条件とは…?
とある首都圏の一角。
電車を降りて表通りから2本くらい外れた裏通りにある、料亭街の名を借りた男娼街。
アフターファイブから少し外れた時間帯、人通りが少ない街中を歩いて在籍している店に出勤した。
「おはようございます」
階段を上って、接客部屋でもある部屋のふすまを開けながら挨拶をした。
「やっと出勤してきたか、大介」
少し鋭い声でそう言うのはこの店の管理人、遣り手の響だった。
「何だよ、いつも通りの時間で遅刻してねえだろ」
「話がある、そこに座れ」
言われながら手で示された小さなスペースに腰を下ろし、響と向かい合う体勢になった。
「何だよ、話って」
「これを見ろ」
その言葉とともに、目の前の小さなちゃぶ台に置かれたの1枚の用紙。
不審に思いながらよく見ると、そこには昨日までの指名本数と売り上げが文字とグラフで記されていた。
活字のみでは意図が漠然とする。
しかし、数字を基に作ったであろう棒グラフが右肩下がりの形でピンと来る。
「今の状況、自分でも理解してるだろう」
響が言いたいこと…
入店当初より売り上げが激減していること。
この状態が続けば在籍が難しくなること。
「まあ…」
「…どうしたんだ、最近。何かあるなら、聞くだけは聞く」
「…別に、特別な理由なんてねえよ」
「…まあ、何もないならいいが」
表向きは親身な口ぶりだが、業務をこなすように声調は無感情で淡々としていた。
遣り手としての業務や売り上げにしか興味がない、この男らしい言動だ。
しかしオレも今更それに対して、幻滅とか最低とか思ったりすることもなかった。
ただ…
(オレもコイツの地位や名誉、金を生み出すための捨て駒か、所詮は)
そう思うと無性に腹が立った。
「話はそれだけだ。もう少しで開店だから、準備を整えておけ」
「冷たいよなあ。クギを刺すだけで、後はほったらかしなんて」
「聞いたって何も答えないだろう。現に、さっきもそうだったじゃないか」
「それにしたって、諦め早すぎだろ。もっと他にやり方考えてくれないのかよ。オレがこのまま売り上げ出さなかったら、アンタの評価に直結するんだぜ?」
挑発すればどんな顔してどんな反応するのか、見てみたくて思わず食い下がった。
「…じゃあどうしたら、お前の意欲を上げられる?」
「言ったら何でもやるか?」
「もちろんだ、約束はする。僕はお前のために何をすればいい?」
(どんだけ仕事好きなんだよ…)
半ば呆れながらも、何をしてもらおうか考えてみた。
(何だろうか、響にとって最も屈辱的な状況は…)
しかし、それは案外あっさりと思い付いた。
「差し出せよ、その体」
オレの下劣な交換条件に案の定、響は目を見開いて驚きや衝撃を示した。
いつもの優位な立場から逆転するんだ、そうなるのも無理はない。
何よりもスタッフとキャストが関係を持つのは一級のご法度。
バレたらコイツの解雇はほぼ確定だ。
しかし、このままオレの売り上げが下がり続ければ同じような結末になり兼ねない。
いつもの涼しい表情が驚きと葛藤でゆがむ様子は、見ていて酷く爽快だった。
(でもどうせ…)
条件を出しながらも応えを薄々ながら予想していると、響が口を開いた。
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