好きと言えたらいいのに
大垣(おおがき)は会社の同期の豆田(まめだ)と体だけの関係を続けていた。大垣は豆田が好きだが、好きだと伝えてしまったら今の関係が壊れてしまうと思い、気持ちを伝えられないでいた。ある日、いつものように豆田から誘われ、抱かれる大垣だったが、思いがけない言葉をもらい…。
『明後日あいてる?』
友人との連絡用に使っているSNSに、豆田(まめだ)から突然メッセージが届いた。
『あいてるよ』
そう返すと、新しいメッセージがすぐに届いた。待ち合わせの時間とホテルの名前が書かれている。ホテルには地図と写真が添えられていた。
『待ってる』
『わかった。必ず行くよ』
メッセージが更新されない画面を見つめる。
2か月ぶりの豆田からの誘いに心がざわざわした。
…偶然だとしても、明後日だなんて…。
*****
豆田は会社の同期だ。
入社のときに10人いた同期はさまざまな理由で会社を去り、豆田と俺だけになってしまった。豆田とは所属する部署は違うけれど、よく会っている。
仕事以外でも。
豆田は人当たりがよく、イケメンの部類に入るだろう。はっきり言ってモテる。女だけでなく男にも。
そしてどういうわけか、恋人関係が長続きしない。
豆田は恋人がいない期間は俺を誘う。
俺は豆田が嫌いじゃないから誘いを断ったりしない。
…こういう関係をセフレって言うんだろうな。
でも、俺はそれでもよかった。豆田と繋がれるのならどんな関係だってかまわない。
俺は豆田が好きだから。
言葉にしたことはないけれど。
*****
待ち合わせに指定されたホテルに着くなり俺たちは抱き合った。
豆田が俺の服を1枚1枚、丁寧に脱がしてくれる。
「大垣(おおがき)、ずいぶん着込んでる」
「俺の部署、冷房がガンガンに効いてるから寒いんだよ。しかも今日は雨だぞ?」
スーツの上着に薄手のカーディガン、シャツの下に下着…という俺の着込み具合に豆田はちょっとだけ笑った。
豆田はいつでも優しく脱がしてくれる。
まるで大切なプレゼントを開けるみたいな手つきに、俺は何回でもどきどきしてしまう。
豆田とは体だけの関係だとわかっていても、このときだけは自分が大切なものになったような気がするのだ。
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