理想の飼い主
初めて恋人の界の家を訪ねた章。飼い犬を触らせてもらうという目的ではあるものの、ひそかにどきどきしていた。そんな中、飼い犬のワトソンに界をとられてヤキモチを焼いてると、界に見透かされてしまう。
界が犬を飼っていると知った僕は、もふもふさせてもらうべく、界の家を訪ねた。
「この子がワトソン。かわいーでしょ」
「うおあああ、かわいい、ちっちゃい…!」
界にワトソンと呼ばれた小さなチワワは、僕の匂いを嗅いで挨拶をした。
「章はやっぱり動物に好かれるね。俺より懐かれてるよ」
「ほんとに? ワトソン、僕も大好きだよー!」
ワトソンは、俺の腹に頭突きして応えてくれた。
毛並みをぐしゃぐしゃにするように撫でていると、界が抗議した。
「章、俺は?」
真っ直ぐすぎる視線に射抜かれて、硬直する。
顔が熱くなって、それを誤魔化すように頭を撫でた。
少し、乱暴になってしまったかもしれない。
もう一度、努めて冷静にしてそっと、丁寧に撫でてみる。さらさらだ。
すると、僕の膝に乗っていたワトソンが、界の元へ行ってしまった。
「あ、や、やっぱり飼い主には敵わないな!」
とっさに声を張り上げたものの、先ほどの緊張感は拭えない。
「あはは、まあ餌くれる人だしね。ふぶっ…こら、ワトソン」
ワトソンが、界の唇をなめた。
「どうしたの、ご飯食べたでしょ」
「…」
小さな舌が、界の肌をすべる。
「こーら。むぁっ…もー」
界は困ったような、それでいて嬉しそうな笑顔を浮かべている。
「ごめん、いつもはこんなことないんだけど。人間がいっぱいいて興奮してるのかな」
「そう、なんだ…」
界の膝の上を独占して甘やかしてもらっているワトソンは、すごくかわいい。
かわいいから、もやもやする。
すると界が、僕を見た。
「…章もこっち来る?」
僕を甘やかす時の、余裕たっぷりの顔だ。
界はワトソンをケージに帰すとソファに座って、こちらに手を伸ばした。
僕はおずおずと四つ足で近づくと、界は僕の顎の裏を撫でてくれた。
「やきもち焼いた?」
界は悪気なくこういう、恥ずかしくて嫌な質問をしてくる。
「かわいいね」
唇を指でなぞられたと思うと、それは口内に入ってきた。
「っ、ふぁ…かい、」
下半身がずくんとうずいて、反射的に界の指に舌を絡めてしまった。
「…もうそういう気持ち?」
「んーっ」
界がそうしたくせに。そう思って軽く指を噛む。
「俺もだよ」
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