理想の飼い主 (Page 2)
界だって『そういう気持ち』になっていることは確かなのに、どうしてこんなに余裕そうな顔をしているのだろう。
僕は界の性器に触れて、これ以上にない催促をした。
すると口から界の指が出ていって、寂しくなる。
「なめてくれる?」
そう言いながら露わにしたものに、迷わず口づける。
「いい子だね」
「んっ、んぅ…っ、ふぁ」
「…無理、しなくていいからね」
頭を撫でる手が、時折ふるえるのがかわいい。
苦しかったけれど、もっと喜んでほしくて、更に奥までくわえ込む。
「うっ…う、んぐ」
「…」
「ひぁっ!?」
突然、おしりに触れられて変な声が出た。
「ふふ、おしり揺れてる。気持ちいい?」
界が覆いかぶさった暗い視界で、また熱くなる。
「それとも期待してたのかな」
「は、ぁっ」
界の指が地肌をすべって、気持ちがいいところに触れた。
「んー…んっ、あぁっ」
手が熱くて、界の性器に触れていたことを思い出す。
「はぁ、んっ」
口に含もうとしても、界に与えられる刺激のせいで、うまくできない。
それでも手の中の熱は増していく。
「かい、かいっ」
界のお腹にぐいぐいと頭を押し付ける。
「もういけそう?」
「ん、ちがっ」
全く違うとは言えないけれど、そうじゃないのだ。
「どうしたの?」
そう言って上体を起こした界の、膝に乗る。
「くっ…」
「ん?」
首に手を回して抱きついて、確実に目が合わないようにしてから、息を吸う。
「く、くっつきたいって、思った」
「…章」
少し沈黙があって、せっかくなので、うなじの辺りを舐めてみる。ワトソンの真似だ。
それからキスをしてみて、これは犬の口ではできまいと、ひそかに優越感に浸る。
――と、突然視界が反転した。
背中がソファに沈むのを感じながら、界と目が合った。
「章。そういうの、煽るって言うんだよ」
「え? あお…んむむ、な、」
いつもより荒く口をふさがれたかと思うと、服を脱がされてしまった。
「一回目、あんまり持たないかも。ごめんね」
耳元を熱い吐息が掠めて、僕は息を飲んだ。
*****
全身が、前代未聞のだるさと痛みに苛まれている。
「お風呂の準備してくるから、待ってて」
爽やかに、それでいて申し訳なさそうに笑う界を見送って、僕はよろよろとケージに向かった。
健気にしっぽを振るワトソンを見て、いたたまれない気持ちになる。
「なんか僕、ムキになってたかもしれない」
ケージの隙間から指を差し入れて鼻に触れ、謝罪の念を伝える。
「ワトソンも界が好きなんだよね」
するとワトソンは上品に、指の先をひと舐めした。
――思えば事の発端は、ワトソンのぺろぺろ攻撃だった。
「…ワトソン。もしかして君が仕組んでくれたの?」
まさか。と思いつつ、問いかける。
ワトソンにときめいたのは本当だ。けれど、初めて踏み入れた恋人の家にどきどきしていた
のもまた、確かなのだ。
不意にワトソンが、くぅと鳴いて界が来たことを知らせてくれた。
「なあに、なんの話してたの?」
僕はワトソンと顔を見合わせた。
「…僕たちの飼い主について」
「飼い主…? えっ、俺?」
困ったような、嬉しいような顔の飼い主を見て、ワトソンは幸せ者だと思った。
もちろん僕もだ。
Fin.
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