恋愛オンライン
オンラインゲームで知り合った顔も知らない人、ねぎくんを好きになったウタ。久し振りに時間が合うと後輩の話を聞かされ、焼きもちを焼いてしまう。出会い厨だと思われるのが嫌で進展を諦めていたウタはその声を思い出して自慰行為を始める。
僕はPCの前で少し、緊張していた。
オンラインゲームを立ち上げて、時計を見る。
と、20時。約束の時間だ。
すると『今大丈夫?』とメッセージが来て、僕は返信の代わりにボイスチャットを繋いだ。
「も、もしもし!」
『ん、久し振り』
イヤフォンから久々に聴く低音に、脳の奥がしびれる。
「ねぎくん、お疲れ様」
『お疲れ。ごめん最近できなくて』
「ううん、また遊べて嬉しいよ」
僕たちはオンラインゲームで知り合って、特にオフ会も開かないまま、数年の付き合いになる。姿も、本名も知らない。それでも僕、『UTA-0325』は、『ねぎま戦士』のことが好きだった。
このゲームは一人でもできるけれど、ねぎくんとプレイするのが一番楽しい。
「ねぎくん、あっち敵いるよ」
『あー。ここ見張ってて。奇襲してくる』
ねぎくんは強い。指示も的確だ。きっと、リアルでも優秀なんだと思う。
「そういえば仕事、大丈夫だった?」
『ああ、うん…初めて新人任されたんだけど、勝手がわからなくて』
「教育係? すごい!」
歳は同じくらいだと思っていたけれど、実はずっと年上だったりするのだろうか。
『はは、めっちゃ泥臭いよ』
「え?」
『…なんか俺、とっつきにくいみたいで。ずっと緊張されてるから慣れてもらおうかなってご飯連れてって。それで最近ログインできなかったんだけど』
「わ…めちゃくちゃいい先輩だ。かっこいい」
『ウタくんこそ優しすぎ』
軽やかな笑いと銃声で流されて、僕も別部隊の見張りについた。
ねぎくんと同じ職場だったら、きっと毎日楽しいだろうな。後輩がうらやましい。
なんてことを考えていると、あっけなく倒されてしまった。
「うわー! ねぎくんごめん!」
『俺も攻め過ぎたー!』
後輩のことはもやもやするけれど、こうして遊んでいればどうでもよくなる。
そもそも、どうでもいいことなのだ。
僕はねぎくんの恋人ではないのだから。
時刻が12時を迎えるころ。ねぎくんの話し方がまったりしてきた。
「ねぎくん眠い?」
『んー。ちょっと』
「あはは、僕も眠い」
もしかすると今日も、無理して時間を取ってくれたのかもしれない。
『でも、だいじょぶ…』
「いやいや、さっき僕のこと撃ったし寝ぼけてるでしょ」
『…ううん』
「また明日やろうよ。時間大丈夫?」
『絶対作る』
嬉しすぎて苦しいくらいだ。
「うん。じゃあ、また明日ね」
『ん。おやすみ』
「おやすみなさい」
通話が、切れた。
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