俺は羊と暮らしていますが…!
新入社員の俺は新しい環境で不眠症になった。睡眠のアプリや音楽、薬の効果がなかったので羊を数えるようになった。ある日、ベッドで羊を数えていると突然男が現れ、抱かれてしまう。その男、俺が数えていた羊の一匹だという。イケメンの羊男と暮らすことになったのだが…。
新入社員は思っていた以上に大変だ。
新しい環境で作業も人間関係も慣れないことばかり。分厚いマニュアルをひと月で覚えるように言われた。職種は販売業で、休憩時間以外はほぼ立ちっぱなし。
体はへとへとだけど頭は冴えているみたいで、なかなか眠れない日が続いた。
睡眠のアプリや音楽、市販薬を試してもあまり効果が感じられない。だから、羊を数えてみることにした。
何匹まで数えているのかは覚えていないけれど、気が付くと朝になっている。どうやら効果はあるらしい。
それからは毎日、羊を数えていた。
新入社員として半月が過ぎたある日のこと。
いつものようにベッドで羊を数え、うとうとしかけたとき体に重さを感じた。
なんだろう、この押さえつけられるような感じは…。もしかして、金縛り?
金縛りだとしたら…、俺の上にいるのはもしかして…。
ホラーものが苦手な俺は絶対に目を開けるまいと、ぎゅっと強く目に力を入れた。
「おい。寝たのか?」
低くて太い声が聞こえた。やけにはっきりとした声だし、近い。目を開けていなくても俺の上から聞こえたのだとわかった。
金縛りに話しかけられた…!
どんなに恐ろしいモノが目の前にいるのかと考えたら、意地でも開けられない。
「それとも寝たふりか?」
突然、むぎゅっと鼻をつままれた。
鼻で呼吸ができない。こんな金縛りってありか?
苦しくなって口を開ける。
唇に何かが当たった。そのまま塞がれる。
下の歯をそろりと撫でられるような感触にびっくりして目を開けてしまった…。
目の前には顔があった。やけに近い…、近すぎる。
もしかして…、キスされてる?
「ん…、ぷふっ…」
息が苦しくて、目の前の顔を両手で押しのけた。
「いてっ!」
俺に押しのけられた正体不明の奴は、顔を両手で覆い、俺の腹の辺りでうずくまっている。
…金縛りって触れるのか。
俺は体を起こした。目の前でうずくまっているのは…、髪はみごとなくるくるパーマの男だけど、ちょっと変だ。左右の耳の上にくるんと巻いた小さな角が見えた。
それよりも重大な問題がある。俺の部屋にどこから、どうやって入ってきたのか、だ。
「お前…、こんな時間にどこから入ってきたんだ?」
くるくるパーマが、がばっと顔を上げた。
「お前の枕だよ」
「枕って…」
「せっかく来てやったのに…、パンチをくれるとはいい度胸だ」
「え? 来てって、どこか…」
言い終わらないうちに、くるくるパーマに押し倒された。すらりとした体には似合わない強い力で肩を押さえつけられる。骨がぎしっとゆがんだみたいな感覚に思わず顔をしかめると、乱暴に唇を塞がれた。
歯列を割って入ってきた柔らかなものに舌先を軽くつつかれる。
「んっ…」
何度となく舌を吸われ、体がじんわりと熱くなる。上顎をなぞられて、ジーンというような刺激が体を下りていくのがわかった。
こんなに気持ちいいの、いつぶりだろうか…。
くるくるパーマにされるがまま、受け入れてしまったのだった。
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