通い猫に恋をした
アオイの部屋には、頻繁にやってくる通い猫のような男・ハヤトが居ついている。キスもセックスもするけれど、その関係に名前を付けることなく過ごしていた。お互いに好意がなければ曖昧な繋がりが続くわけがないとわかっているけれど。あともう一歩を踏み出すきっかけは、すぐそこにあるかもしれない。
鍋の火を止めたとき、まるで見計らったかのようなタイミングで玄関のチャイムが鳴った。
それも1回や2回じゃなく、何かのメロディーでもイメージしているのかと疑いたくなるような猛プッシュ。
嫌がらせか悪戯かというところだが、オレは犯人を知っている。
「誰」
ドアを薄く開き、意識して声を低くしてうなるように聞いたのだが、返事の前にガッとドアを引かれて全く意味をなさなかった。
「わかりきってんのにいちいちきくなよ」
「礼儀ぐらい守れよいい歳したオッサンが」
「うるせぇ、アラフォーまでまだ猶予があるんだからオッサンじゃねーよ。ま、いいから部屋早く入れ」
「ここオレんちだし!」
家主はオレなのにこの扱い…いつものことだけど。
「アオイちゃーん、メシィ」
「ほんと図々しいな!」
すでにソファーに転がってテレビのチャンネル変えてるし!
ほんとにこいつは!
心の中で文句たらたらなくせに、新しい食器を出す自分もムカつく。
自称・探偵のろくでもないアラフォー男、ハヤト。
背が高くて、筋肉質で体格がいい。
顔は男前、裏家業の気配と色気が危険そうで、ヒモとか一定数の需要がありそうではある。
出会いはドラマチックの欠片もない、混雑していたラーメン屋で相席になった、それだけのこと。
オレはスマホ片手、ハヤトはスポーツ新聞の競艇情報を眺めていたと思う。
いつもよりずっと時間がかかってようやく出されたギョウザは、遅延のおわびだとかで1人前の皿なのにみっちり2人前盛られていた。
こんなに食えないなと思ったオレは、目の前にいたハヤトに声を掛けた。
たったそれだけの男がこうしてオレの部屋でデカい顔するようになるだなんて、誰が思うだろう。
「はい、ごはん。おかわりは自分でいけよ」
「何だよ、オレの分も作ってあったんじゃねーか」
「自惚れんな」
「わざわざハンバーク2人分用意しといて何いってやがる」
「イタダキマス」
いちいちおちょくりやがってと思いつつ、ついムキになる自分がいやになる。
だって、来るか来ないかわからなくても食事を2人分準備してるのは本当だ。
余ったら翌日自分で食べればいいと言い訳して、ハヤトの分まで準備してしまう。
自分で飲まない銘柄のビールを冷蔵庫にストックしてるのも、食器やグラス、タオルにスウェットまで準備してるのも。
よくよく考えたら、現金やブランド品じゃないにしても随分貢いでるな。
「ハヤトさ、たまには事前にアポ取ってみようよ」
「仕事の納品とスーパーに買い物いく以外、出不精のくせに何いってやがる。どうせ留守だろうが1時間もしないで帰って来るだろ」
「外泊とかするかもだろ?」
「ないな」
「何だよその自信」
例えば旅行とかさ…いかないけど。
けなげ~
アオイくんかわいい
ハヤトさんスパダリに変身しそうな予感w
Nene さん 2021年9月12日