理由もなくもうセックスしないってどういうこと?!
風雅(ふうが)は突然恋人の祐樹(ゆうき)に「もうお前のこと抱かないから」と宣言されてしまう。理由を問いただすが答えてくれない。ただ別れたいわけではないと。触れることさえしなくなった恋人に風雅は「こうなったら浮気してやる!」と酔った勢いで家をとびだした。
行ってきますのキスに、ただいまのキス。
新婚のようなラブラブなやりとりが止められない。
飽きもせず「行ってらっしゃいのキス」とともに送り出した恋人の祐樹は、その日「おかえりのキス」を拒んだ。
まるで触られたくないと突き出された腕に、自然と距離が生まれる。
「え?」
「疲れた、風呂は?」
「沸いてるけど…」
「先に入るわ」
「う、うん」
カバンを反射的に受け取る。
気分じゃなかっただけだろう。
その時は深く考えていなかった。
いつものように取り留めのない会話をして、夜になりベッドに横になる。
ベッドは二人で寝転んでも余るくらい広い。
自然と脚を絡ませ顔を寄せる。唇に触れる寸前、手のひらに遮られた。
「っ!帰ってきてからなに?!祐樹、ずっと変だよ」
「変じゃないだろ」
「変だって!俺なんかした?」
飛び起きて上半身を起こす。祐樹は手に持ったスマホを見ていた。
その姿が更に怒りを増長させる。
「お前のこともう抱かないから」
「へ」
一方的に会話は終わりというように祐樹は布団を被った。
「…別れるってこと?」
「別れない」
「え、あ、そうなの?」
愛想をつかれたのかと思った風雅は、安心していいのか正直戸惑った。
幼馴染である祐樹とは小さな頃から遊んでいた。
進路で高校から離れてしまったが、連絡は取り合っていた。
就職先が偶然同じ区画にあり、この際だからシェアハウスをしようと話を持ち掛けた時、まさか恋人になれるなんて思ってもいなかった。
昔から祐樹に向ける感情が恋愛感情だとうすうす自覚してはいた。
祐樹を抱く夢を見て下着を汚した時、罪悪感よりやっぱりそういう意味で好きなんだと納得したものだ。
まあ、実際抱かれるのは風雅の方だったけど。
「…別れないって、ここにいていいんだよね」
「ああ」
「ただ俺に触りたくないってだけ?」
これまでの毎日がまざまざと目に浮かぶ。喧嘩することもあったけど楽しい日々だった。
「うるさい。明日も早いんだ眠らせろ」
顔を見ようとさえしない、くぐもった声は本気で迷惑そうで、風雅はそれ以上なにもいえなかった。
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