あなたが俺の初恋泥棒 (Page 2)
今日冬馬を振ったとき、彼女が言ったのだ――この間、冬馬くんに会いにきていた人いたでしょ、彼みたいなのが私のタイプなの。
最初は何のことだと思ったが、そういえば先日、晴臣に忘れ物を届けてもらったことがあった。
どうせ暇だろって頼んだら、暇じゃないけどバイトに行くついででよければ、と持ってきてくれた。
あのときのことを言っているのだろうと思った。
晴臣は非常に容姿端麗な男で、あの日もたしかに多くの女子がぽっと赤らめながら晴臣を見ていた。
その上、ひょうひょうとしたところはありつつも、基本的には穏和な雰囲気や性格をしている。
冬馬のおねだりに文句も言わないし、今のむっすりとした冬馬にも特に苛立つ風もなく対応してくれるくらいだ。
晴臣はモテるなと憧れたことはあったものの、やっかんだことはなかった。
けれど今回だけは駄目だった。
冬馬は晴臣に初恋を奪われた気持ちになっていた。
晴臣は何も悪くないのに、今日の今日で会ってしまえば絶対に八つ当たりしてしまうと思っていたし、実際してしまった。
「なに、冬馬、今日告白でもしたの」
「そうだよ」
「まぁ、前々から彼女欲しいって言ってたもんね」
「その彼女にしたかった子に振られたけどね。この間俺に忘れ物を届けにきてくれた人みたいなのがタイプなんだってさ。かっこよくて、優しそうだからって。よかったな」
「よくないよ」
そう呟いた晴臣の声は、これまでよりも少しだけ低かった。
「冬馬は彼女作ってなにしたかったの」
「は?」
「エッチなことしたかったのかな。こんなもの持ってるくらいだし」
晴臣はテーブルの下に手を突っ込んだかと思うと、そこから一冊の本を取り出し、冬馬の前にかざした。
「なっ、そっ、それは」
「お前のベッドの下で見つけたエロ本」
勝手に侵入しただけでなく家探しまでしていたのか。
あまつさえ冬馬が傷心中のタイミングでそれをからからうなんてどういう了見だ。
衝撃と羞恥と怒りで言葉を出せずにいると、ふいに晴臣が立ったままの冬馬の足元まで近づいてきた。
そして、冬馬の下肢にそっと手をあてがった。
「俺が慰めてやろうか」
「は…?」
「俺がこの本や女の代わりに、お前をよくしてやるって言ってんの」
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