SNSで出会ったワンコ系イケメンのもとに永久就職しました (Page 2)
瑞樹は三ヶ月前に社会人になったばかりで、就活の波に押し流されつつもどうにか入れた会社で馬車馬の如く働かされていた。
残業も休日出勤も当たり前、なのに給与は決して多くはなく、心身に疲労を抱え目の下にはくまが絶えない。
転職をしたいが入社三ヶ月で根を上げるような若者を雇ってくれる職場はあるのかと考えたら一歩踏み出せなかった。
せめてものストレスの捌け口としてSNSのアカウントを開設した。
そこで久々に休みがとれそうとメッセージを投稿したら、一緒に遊びませんかとリプライをくれたのがワンコさんだった。
ワンコさんは瑞樹がSNS開設をしてすぐに知り合った趣味も気も合う友達だった。
上司や仕事の愚痴をこぼせば優しい言葉で慰めてくれるし、日常の投稿はかわいい子犬の写真ばかりで癒される。
名前やつぶやきからしてもきっと可憐な女の子なんだろうなと思い、一度くらい会ってみたいとは考えていたけれど、まさか向こうから声をかけてくるなんて。
せっかくの休みに外に出るのは少し悩ましかったけれど、気になっていたワンコさんに会いたくて、瑞樹は了承した。
そうして待ち合わせ場所に選んだ駅前に現れたのは、すらりとした高身長、美しいブロンドヘア、整った目鼻立ちをしたとてもつないイケメンだった。
最初は全くの他人だと思い、それでもモデルのような姿に目を惹かれてつい見たのだが、視線が絡んで微笑まれた。
「もしかしてみずたまさんですか。俺、ワンコです」
みずたま、というのは瑞樹のSNS上のハンドルネームだ。
それを知っているうえに、ワンコと名乗られて、瑞樹は困惑した。
「ずっと会ってみたかったんです。あ、俺、本名は太一って言うんですけど、みずたまさんは?」
「え、俺は瑞樹だけど…」
「瑞樹さん! 本名も可愛らしいんですね。名前で呼んでもいいですか」
「う、うん」
「よかった。あ、俺のことも太一って呼んでくださいね」
イメージとは違う姿と激しい距離の詰め方に戸惑い、適当な言い訳をして帰ってしまおうとも思った。
しかし、いつも慰めてくれて今日もわざわざ会いたいと言ってくれた彼を裏切ることはできない。
それに、瑞樹の両手をとってにこにこする様はたしかにどこか尻尾を振るワンコめいたものを感じて、少しかわいらしいと思った。
「えっと、今日はよろしくね、太一くん」
名前を呼べば、太一はさらに笑みを弾けさせ、瑞樹の手を引いて歩き出した。
それからは、もともと約束していた気になっていた映画を一緒に観たり、レジャー施設に行って体を動かしたりして遊んだ。
SNSの印象から年下だと思っていた太一は、その実、瑞樹よりも六つ年上だった。
よく見れば腕時計や革靴など、身につけているものは上質なブランドもので、これが成功している大人かとひっそり羨ましい気持ちを抱いた。
どうして自分なんかを慰めたり誘い出してくれたのだろう、もしかして下を見て憐れんでいる嫌なやつなのだろうかとも疑った。
しかし関われば関わるほど、太一はいい人間に思えた。
趣味が合ったり会話のテンポが心地いいだけでなく、楽しい一日にしようと約束していたのにうっかり仕事の愚痴をこぼしてしまった瑞樹に嫌な顔をすることなく、優しい言葉で包んでくれた。
その声や笑顔はとてもあたたかく瑞樹の中に染み込んで、裏があるとは到底思えず、羨望や疑念を抱いたことを恥じた。
SNS上で出会い親しくなったワンコさんはまさにこの人だと、彼は自分の大切な友達だと思うようになった。
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