SNSで出会ったワンコ系イケメンのもとに永久就職しました (Page 3)
夜になって、バーに誘われたあたりまでは覚えている。
明日も仕事があるから、と断ろうとしたら、少しだけと希われた。
出会ってから今日一日遊んでいる間にも、太一を犬みたいだと思うことは多々あった。
映画の感想が一致したり、力を合わせゲームをクリアしたりして喜んでいるときはその背に尻尾がぶんぶん揺れる幻覚が現れ見えた。
飲食店で一口分けてほしいとねだってきたときや、今みたいな場面ではその頭に犬耳が生えている幻覚が現れ、それがしゅんと垂れ下がっているように見えた。
六つ年上の成功している大人とは思えなくらいに太一は感情表現が豊かで愛らしい犬めいた姿に、今日だけで何度も庇護欲を掻き立てられたし、太一と過ごす時間は楽しかった。
瑞樹は断りきれず、じゃあ少しだけ、と頷いて、そしてバーに向かった。
そこで酒を口にしたあたりから、瑞樹の記憶はなかった。
「太一さん」
あれからも二度ほど達し、意識が薄れてきてそれでも続く激しい揺さぶりの中で、瑞樹はなんとか彼の名前を呼んだ。
「瑞樹さん、起きたんですね」
「なにしてるんですか」
「ふふ、見ての通りですよ。それとも、瑞樹さんはじめてですか? だったらすごい嬉しいな」
「ああっ」
太一は蕩けた声を紡ぐと共に、瑞樹の腹の奥を思いきり穿った。
全身を駆ける電流のような快楽に、もう何度目ともわからないほどにしなった腰が痛かった。
「あ、あ…、どうして、こんなこと…」
「それはもちろん、俺が瑞樹さんのこと好きだからですよ」
「好き…?」
ふいに、太一の律動が止まった。
「最初はただ心配だっただけなんですよ。せっかく知り合った趣味も気も合うあなたが、今にも死にそうなくらいに暗いことばかり投稿するから。一体どんな会社に勤めているのかなと思って、調べて見に行ったんです」
調べたって、どうやって?
たしかに瑞樹はSNS上に仕事の愚痴を書いてはいるが、さすがに会社の名前やどんな業務をしているかまでは書いていない。
個人情報も、こうして顔を合わせる約束をするまでは住んでいる街が同じである程度しかこれまでに明かしたことがなかった。
「太一さんの特徴は聞いてましたし、社員名簿も入手していたんでどういう人かは分かっていたんですけど。会社から出てきた生の瑞樹さんを見たら、たまらなくなっちゃって。ほら、上役っぽいおじさんが落としたハンカチ拾ってあげていたでしょう」
たしかにそんなこともあった気がするけれど。
それを今日出会ったばかりの彼に把握されている事に瑞樹がぞっとする一方で、太一はよりうっそりとした声で言った。
「そのときの瑞樹さんには、媚びなんてなくて、ただの善意しかなくて。普段はあんなに上司や会社について愚痴っているのに、お人好しで、可愛いなぁと思って。絶対に、俺が守ってあげたいって思ったんです。そうしたら、ちょうどチャンスがまいこんできたので、少し盛らせていただきました」
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