好きと言えたらいいのに (Page 3)
首の後ろがくすぐったくて目が覚めた。
ゆっくりと頭を動かすと、豆田に背中から抱き締められていた。
「豆田…?」
声がすかすかだ。
豆田が、ぷっ、と笑った。息がうなじにかかる。
「笑うな…」
「ごめん。泣いてる大垣がなんだか可愛くてさ…」
胸に回されていた豆田の両腕を、ぺしっと叩いてやった。
「あのさ…。ほかの奴のときにも泣いてる?」
ほかの誰かなんているわけがない。俺は豆田しか知らないし、豆田以外はごめんだ…。
そう言えたらいいのに。
好きと言ってしまったら、きっとこの関係は終わってしまう。もしかしたら同期という関係も…。
黙っていると、耳の後ろに優しくキスをされた。
「…そういえば、さ…。ここの部屋代、高かったんじゃないか?」
本当の気持ちをごまかしたくて、俺は話題を変える。
ホテルをとるのはいつだって豆田だ。
今日はいつもより部屋が広いし、ベッドもふかふかで大きい気がする。
最上階まではいかないけど、エレベーターを結構上がってきた。
「そんなこと…、大垣が気にすることじゃないよ」
「でもさ、ここ、俺が出張で泊まるホテルの倍くらい広い。…カーテンを開けたらきれいな夜景が見られそうだ」
「うん。見られるよ」
だからこの部屋をとった、と抱き締められたまま言われた。
「大垣。誕生日、おめでとう」
後ろからぎゅっとされて、豆田の速い鼓動が背中から伝わってくる。
俺の胸の音もつられて速くなる。
…今日が俺の誕生日ってことをわかっていて…。
「今日は大垣と一緒にいたかったんだ」
鼻の奥が、つん、と痛い。
なんてことを言うんだ、豆田のばか野郎…。
俺は唇をきつくかんだ。
好きって言えたらいいのに。
言えたなら、俺はきっと泣いてしまう。
Fin.
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