平凡リーマンはワンコ系年下彼氏に溺愛されています
平凡なサラリーマンである浩太は六つ年下で人気モデルの翼と交際している。毎日のように体を求めてくる翼に抗いながらも結局は受け入れてしまうほどに彼を愛し愛されている自覚もあるが、一方で住む世界の違いや歳の差からいつか終わりがくるのではと不安に思っていた。だが、翼の愛は浩太が思うよりもずっと深く重いもので——。
「浩太さん、抱かせてください」
うるうるとした瞳でこちらを見つめてくる恋人に榛名浩太はうっと頬を引きつらせた。
浩太の恋人である三澄翼は実に顔がいい。
透ける金髪に、陶器のような白皙、まつ毛は天然でばさりと長く、普通であればそこいらの女子から妬心を買いそうなほどだが、むしろ彼は世界に愛されていた。
なにせ彼は海外のランウェイにも呼ばれるほどの人気モデルだ。
載った雑誌は即完売、SNSで一枚写真をあげればあらゆる言語のメッセージが届き、抱かれたい男ランキングなんかではもう何年も首位に君臨している。
浩太も翼と恋人になるよりずっと前から、彼の載った雑誌を必死に買いに走り、熱心にメッセージを送るファンだった。
だから、その美しい相貌をフル活用しおねだりなんかをされてしまうとたまらなくなってしまう。
だが、冷静になれ。
この麗しい男は昨夜も同じおねだりをして、さんざんに浩太を抱きつぶした。
「昨日もやっただろ」
「今日もやりたいんです」
「明日、会議あるから朝早いし」
「浩太さん、いつになったら俺に養われてくれるんですか」
翼はむっすりと唇を尖らせた。
交際してからというもの、彼はなにかにつけては浩太を囲いこもうとする発言をする。
だが、浩太はそれに一度も好意的な反応を示したことはなかった。
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昨年、翼のファンイベントの帰りに偶然、ふたりは同じ飲食店で邂逅した。
入店時から翼の存在に気づきながらも推しのプライベートを邪魔しない精神で遠くから見ていた浩太だったが、翼の方から声をかけてきた。
男性ファンは珍しいから嬉しかった、いろいろ話を聞かせてほしいなどと言われ、推しに乞われたら断れるはずもなかった。
そこから交流がはじまり、頻繁に会うようになり、やがて翼からの告白で二人は交際に至った。
翼に声をかけられてから今に至るまで、浩太は夢見の心地が抜けない。
なにせ、推しとファン、人気モデルと平社員、年齢だって彼の方が六つも下だ。
住んでいる世界も見ている世界もまるで違う。
今は翼が浩太にこんなおねだりをしてくるほど惚れてくれているが、いつか自分よりももっと素敵な存在に目移りする日が来るんじゃないかと思っている。
そのときに、生活のすべてを翼に握らせ、この男なしでは生きられない体になってしまっていたらと思うと、想像するだけでぞっとしてしまう。
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